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世界のエネルギーの方向は 2 [火力発電所]

◎ 昨日は、ドイツの水素覇権に向けての動きを報告した。今日は、ドイツだけではないEU全体が同じ方向でCO2ぜる実現に向けて、水素を柱とするエネルギー政策を打ち出している。今日はその報告である。    kawakami


水素エネルギー(デンマーク).PNG


◆  EU、水素で狙うトップの座 温暖化ガス排出ゼロへ対策
 2050年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標に向け、欧州連合(EU)が矢継ぎ早に対策を打ち出した。柱となるのが水素を中心に据えたエネルギーシステムの改革だ。新型コロナウイルス感染拡大で傷ついた経済や雇用の立て直しが急務の今、なぜ中期的な環境政策に力を注ぐのか。そこにはEUの深謀がにじむ。

 EUは7月21日まで5日にわたって開いた首脳会議で、21年から7年間の中期予算の3割を気候変動関連に充てることで合意した。「予算が気候変動対策に関連付けられるのは初めてだ」。7月23日の欧州議会で合意内容を報告したミシェルEU大統領は胸を張った。

 もともと環境政策に積極的だったEUがここにきて一段とギアを上げたのには理由がある。EUの欧州委員会は7月に公表したエネルギーシステム統合戦略で「この5~10年間の対策が命運を左右する」と訴えた。エネルギーインフラの耐用年数は通常20~60年で、実質ゼロを実現するにはすぐさま動かなくては手遅れになるというわけだ。

 欧州委は同時に「水素戦略」も採択。水素を前面に押し出すのは、50年の排出実質ゼロを見据えたとき、対策が遅れている分野をカバーできるとみるからだ。再生可能エネルギーだけでは排出ゼロは達成できない。
 乗用車で電気自動車の導入が進む運輸部門だが、飛行機や船、トラックの電化は難しい。電気では出しにくい強いエネルギーが必要だからだ。鉄鋼やセメント、化学などの産業も化石燃料を使う工程がある。EUの温暖化ガス排出に占める割合は運輸が25%、産業が9%。燃焼しても二酸化炭素(CO2)を出さず、強いエネルギーも生む水素は脱炭素化の切り札と期待される。

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 水素は電力と違って貯蔵などの使い勝手が良い。余った再生エネで海水を電気分解して水素をためておけば発電にも、運輸や産業にも活用できる。ブルームバーグNEFによると、50年時点で水素は世界のエネルギー需要の最大24%を占める可能性がある。

 水素は日豪や中国なども研究開発にしのぎを削る。EUは水素戦略で30年に1千万トンの生産体制を整える方針を明記。日本の目標の30倍超にあたる大胆な目標をぶち上げた。「環境先進国」として「世界でクリーン技術の主導権をとる」(欧州委のティメルマンス上級副委員長)狙いだ。

 産業界も歓迎する。フランス電力(EDF)のレビ最高経営責任者(CEO)は「(水素が)次に進むべき領域だ」と語る。EUは産業界を巻き込んだ青写真を描く。企業連合「クリーン水素連合」を核に、水素生産から輸送用パイプラインや充填施設などインフラ整備、消費までのエコシステムを築く考えだ。

 この構想には成功体験がある。エアバスだ。仏独を中心とする航空機産業が人材とノウハウを出して合併。米ボーイングと並ぶ世界を代表する企業に成長した。先行事例として蓄電池では独ボッシュや仏ルノーなど400社・機関以上が参加する「バッテリー連合」を設立。合併はしていないが、原料調達から生産、リサイクルを担うネットワークを築きつつある。

 国際エネルギー機関(IEA)は7月上旬に公表した報告書で排出ゼロに必要な技術として水素や蓄電池、CO2の地中貯留などを挙げた。EUはこのうち2つで欧州規模の官民連合をつくった。クリーン水素連合には200近い企業・団体が関心を寄せ、欧州委は50年までの官民投資額が1800億~4700億ユーロになるとみる。

 狙いは世界で戦える欧州発のチャンピオン企業の育成だ。デジタル分野で米系企業に圧倒的なシェアを握られたEUは、環境・エネルギー分野で巻き返したいとの思いが強い。域内の排出の実質ゼロをめざしながら、コロナで傷ついた景気を浮揚させ、欧州企業の競争力を高める。水素戦略には、実現すれば一石三鳥にもなるEUの野心が込められている。(ブリュッセル=竹内康雄)



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