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水素が次代を占めるドイツ2 [火力発電所]

▲ 昨日の続きである。 kawakami 

予算は90億ユーロ

 新型コロナから復興のための経済対策では水素に90億ユーロ(約1兆800億円)の予算をつけた。
現在はまだ実証段階にとどまる水素に対策全体の7%を振り向ける破格の扱いだ。
 エネルギー量あたりの供給コストが天然ガスの1.5~5倍とされる水素のコスト競争力を高め、水素の生産能力(電解装置の能力換算)を30年に現在の200倍の5ギガワット、40年に10ギガワットに増やす計画だ。10ギガワットなら原発10基が生むエネルギーと同等だ。

 水素戦略で注目すべきは「グリーン水素」に特化したことだ。グリーン水素とは再生エネの電気を使って水を電解装置で分解して作る水素を指す。石炭や天然ガスから製造する「グレー水素」を認めないだけでなく、化石燃料をベースにCO2回収と組み合わせてCO2排出をゼロにする「ブルー水素」も長期的には戦略の枠外とした。

 調査会社のブルームバーグNEFによると、現在世界の水素生産量は1億1000万トンでほとんどが農薬などの生産に使われている。このうちグリーンは1%に満たず、残りはほぼグレーだという。
 実は、いまドイツで水を電解して水素をつくってもグリーン水素にはならない。19年の電源のうちまだ約4割が化石燃料だからだ。ではなぜいまから水素に懸けるのか。

一気に水素社会への移行を目指す

 独シンクタンク、アゴラ・エネルギーヴェンデのディレクター、パトリック・グライヒェン氏は「再生エネの比率が高まってからでは遅い。20年代に投資して備えなければならない」と解説する。
 ドイツは30年に再生エネによる発電比率65%を目指している。「再生エネの比率が高まったときに一気に水素社会に移行できるように準備することで、(発電量の変動を吸収する能力も高まり)再生エネ拡大の加速にもつながる」と言う。

 ドイツの野心は水素戦略の次の一文に集約されている。
「ドイツの産業を強化し、ドイツ企業にとって世界市場での商機を確保する」
 シーメンスやティッセン・クルップのようなドイツを代表する企業のほか、スタートアップのサンファイアなどが電解装置を手がける。電力大手RWEや化学大手エボニックなどもそれぞれの分野で水素利用の拡大をにらむ。巨額の予算でこうした企業を北欧やオランダ、日本などの競合に勝てるように後押しし輸出産業に育てる。90億ユーロの予算のうち、20億ユーロはドイツ製の電解装置を使う海外のプロジェクトへの投資とする周到さだ。

 
 政策面では、CO2排出に応じた課税や、グリーン水素を製造するための電気代を安くするなどしてコスト競争力を補う。30年までに航空燃料の少なくとも2%をCO2フリーの燃料を使うよう義務付けることも検討している。
 20年前に独政府が再エネへの移行を打ち出したとき、コスト増で競争力が落ちるとして否定的だった産業界も今回はおおむね歓迎している。
 20年1~3月に発電に占める再エネ比率が51%に達し、初めて風力が最大電源になるなど、長期計画が成果を示してきたことも背景にあるだろう。
 グリーン水素はドイツの脱炭素、そして産業競争力向上の特効薬になれるのか。思惑通り進むならこの10年のドイツ社会・産業の変化はすさまじいものになりそうだ。(この稿終了)



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