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外務省有識者提言 3 [国政]

★ エネルギーから見た世界の中の日本

1.遅れる脱炭素への取り組み

1)偏る再生可能エネルギーの導入状況と低い目標値
 日本は、東日本大震災以降、固定価格買取制度の導入や電力システム改革の推進などのエネルギー・環境政策を進めてきた。固定価格買取制度により、太陽光発電の導入量は拡大し、わずか5年で、5%程度の電力を供給するまでに成長した。2017年までには合計で50ギガワット程度が導入されたとみられている。
 一方で、太陽光以外の再生可能エネルギーは導入速度が遅く、特に、世界的には高い価格競争力を持つ陸上風力発電の拡大はまだ本格的に始まっていない。地熱や小水力も伸び悩み、バイオエネルギーの拡大が輸入に依存しているように、日本に存在する豊かな再生可能エネルギーを活用できていない。
 2030年に電力の22-24%という日本の再生可能エネルギー目標は、市場に対して今後も再生可能エネルギーを拡大していくというメッセージを発信できていない。

2)依然として各国よりも高い再生可能エネルギーのコスト
 太陽光発電の拡大につれ日本でもコストが次第に低下し、固定価格買取制度導入前に比べ、事業用太陽光も住宅用太陽光も6割から7割もコストが下がっている。ベストパフォーマンスの太陽光は、すでにガス火力とも競争力を持つようになった。しかし、海外ではそれを上回る速度で急速にコスト低下が実現しているため、日本は、太陽光も風力も平均では世界でもっとも高い国々の一つにとどまっている。
 近年、多くの国々が、良好な競争環境を政策的に用意し、入札によって再生可能エネルギーのコストを低下させている。しかし、日本では、系統連系や優先給電の保証がなく、目標設定が低いことなど将来的な再生可能エネルギー拡大の展望に欠けるため、事業者がコスト低下に踏み込める環境が整っていない。
 こうして、再生可能エネルギーのコストが高止まりすることにより、日本では企業が再生可能エネルギーを十分に活用できずにいる。こうした状況が続けば、国際競争力を削ぐ一因になることが懸念される。

3)効率化の求められる熱利用
 石炭火力や原子力発電では、投入されるエネルギーの3割から4割しか電力にすることができず、高効率のガス発電でも5割程度にとどまる。残りのエネルギーは、熱として環境中に捨てられている。一方でエネルギーの消費サイドでは、熱需要が全体の三分の一を占めている。これまで日本では、電力に力点を置いた政策がとられてきたため、大きなポテンシャルが存在する、太陽熱、バイオエネルギー熱、地中熱などの利用は進まず、地域熱供給やコージェネレーションの導入も限定的なままである。国内に大きなポテンシャルのあるこういった熱エネルギー源の徹底利用の推進が必要である。

4)大きな改善の余地がある省エネルギー・エネルギー効率化
 東日本大震災前に比べて、日本では電力消費量が年間10%程度減少した。電力の使い方の見直しや、高効率のエネルギー機器の導入が大きな効果をあげた結果であるが、すべての分野で効率化が進んでいるわけではない。国内には、日本の産業は先進的な対策をやりつくしているため「乾いた雑巾」のような状態だ、という神話がある。確かに、1970年代の第一次石油ショックの直後は、一気にエネルギー効率化が進められ、エネルギー効率大国となったが、80年代から90年代にかけて効率化は停滞し、国の統計でも製造業のエネルギー生産性は足踏みを続けている。特に、日本のGDPの半分を生み出す中小企業・小規模事業者での省エネルギー・エネルギー効率化は、まだ進んでいない。
 建築分野のエネルギー消費性能基準の義務化も始まったばかりで、多くの住宅・建築物が対象とされておらず、既存の建築物の対策も進んでいない。一方、欧州各国では、すべての建築物に省エネルギー基準を課して、需要側でのエネルギー消費削減を促進し、同時に、電力だけでなく再生可能エネルギーの熱利用にも目標値を設定している。
 日本にも、IoT技術などの活用で、仕事と暮らしの場で快適な環境を維持し、質を高めながらエネルギーの消費量を減らしていくことのできる大きな余地が存在している。
 

5)高まる石炭火力発電への依存
 パリ協定の発効以降、日本国内で計画されている約17ギガワットもの石炭火力の増加や、日本政府による途上国への石炭火力の輸出支援の問題が、国際会議の場でもたびたび取り上げられるようになってきた。
 国内の計画が実行されれば、現行の「エネルギー基本計画」にある2030年に26%を石炭で賄う目標を大きく上回る可能性もある。再生可能エネルギーの増加とエネルギー効率化により、日本の温室効果ガスの排出量は、2013年度以降低下傾向にあるが、石炭火力が増設されることで、削減目標の達成が著しく難しくなる。そして、エネルギー消費の低下や再生可能エネルギーの増加による設備利用率の低下などで、大規模な投資が座礁資産となっていく可能性が高い。

6)原子力発電の役割の低下
 東京電力福島第一原子力発電所の事故から7年が経とうとしているなかで、事故前には54基あった原発のうち、現在稼働しているものは4基である。
 世界的には、原子力は、高リスクで競争力のない電源であることが明らかになっているにもかかわらず、日本では、原子力が他の電源よりも安価であるという試算がそのまま使われている。新規の原子力発電に巨額の公的支援を必要としている海外の事例を見ても、日本での原発新増設は経済的な現実性を欠いている。また、原子力発電は、石炭火力と同様に需要追従性が低く、系統に対する柔軟性に乏しいため、世界が進める再生可能エネルギー中心の電力システムとの整合性に問題を抱える。
 投資リスクが高く柔軟性に欠けるエネルギー技術への固執は、再生可能エネルギーの拡大を阻み、日本のエネルギー転換を妨げてしまう。

2.日本不在のまま進むグリーンビジネスのルールメイキング
 
1)バリューチェーン参加に求められる再生可能エネルギーの利用
 脱炭素化が企業評価の基準になる中で、エネルギー産業以外のビジネスアクターが、再生可能エネルギーの利用などのビジネスの脱炭素化にむけて大胆に動き始めている。そういった中で、世界と足並みを揃えられない日本の製品やサービスが、バリューチェーンへの参加条件を失うリスクが生じている。
 例えばアップルは、世界全体での100%グリーン化を視野に入れて活動し、中国に500メガワット近くの再生可能エネルギー施設を自ら建設し、生産業者も再生可能エネルギー電力の購入に取り組むよう働きかけている。また、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、2017年に、商品を納入するサプライヤーに対し二酸化炭素排出量削減を求める「プロジェクト・ギガトン」という取り組みを開始した。
 これらの動きは、脱炭素化が新たな商業ルールになったことを意味している。日本の再生可能エネルギー導入率が低い水準にとどまれば、日本企業の世界でのビジネス展開を困難にする恐れがある。

2)世界で進む脱炭素化のルールメイキング
 製品評価の基準や企業活動のルールを脱炭素経済への転換と整合するものに改めていく動きが広がってきている。例えば、欧州では、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)によって蓄電池を評価する動きが出ている。今後、こうした評価が導入されれば、国内で再生可能エネルギーからの電力供給率の高い欧州各国で作られる製品が、化石燃料依存の高い日本製品より有利に評価される可能性が高い。再生可能エネルギー導入に立ち遅れ、化石燃料に依存したエネルギーを使い続けることは、日本で生産される製品の評価を下げてしまう。
 また国際的には、EU、中国などで排出権取引制度や実効性のある炭素税がすでに導入されており、米国でもカリフォルニアやニューヨークなどの主要な州で排出権取引制度が導入されている。しかし、日本では、地球温暖化対策税で設定された炭素価格は低いレベルにとどまり、排出権取引制度も東京都以外では法制化されていないなど、国際的な炭素市場の議論や制度設計に大きく出遅れている。
 脱炭素経済のルールづくりが日本不在のまま続けば、世界的に活動する日本の企業にとって、大きなマイナスとなりかねない。

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