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外務省有識者提言 4 [国政]

提言:気候変動対策で世界を先導する新しいエネルギー外交の推進を

1.再生可能エネルギー外交を推進する

1)気候変動対策で世界に貢献し、日本の経済・社会の発展につなげる
 気候変動は地球規模の危機であり、人類の存続をも左右する。この課題に真摯に立ち向かうことを抜きに、日本の国家としての品格を保つことはできない。また気候変動は地域紛争の一因ともなり、安全保障上のリスク拡大を招く。
 今日の日本は、パリ協定で合意された2℃目標達成に向け、主導的な役割を果たしているとは言い難い。この状況から脱却するために、脱炭素社会に向かう世界で急速に役割が高まっている再生可能エネルギーを、日本が内外で強力に推進することにより、国家としての信頼を高める「再生可能エネルギー外交」を展開する。
 再生可能エネルギー外交は、化石燃料資源の確保を中心とした従来のエネルギー外交を、尽きることのない自然のエネルギー資源の活用により、世界とともに持続可能な未来を希求する外交へと発展させるものである。気候変動の危機回避の取り組みは、脱炭素ビジネスの成長機会を生み出しており、日本外交がこの課題で世界をリードすることは、新たな経済成長への道である。

2)持続可能なエネルギーで途上国の未来に貢献する
 世界で未電化地域に住む12億人の人々へ電力アクセスを提供することは、国連持続可能な開発のための2030年アジェンダ(SDGs)の重要課題である。広域的な電力系統の整備がなくても分散型電源として電力を提供できる再生可能エネルギーは、未電化地域への最も迅速な解決策である。
 途上国の経済発展にともなうエネルギー需要の拡大への対応として、日本の有する優れたエネルギー効率化技術の活用とともに、途上国の再生可能エネルギー資源を活用する技術の供与や投資を促進していく。
持続可能なエネルギー開発を支援することが、途上国の未来への真の貢献であり、日本は、途上国の新しい経済を共に築いていくパートナーとなる。

3)多様な非国家アクターの国際舞台での活動を支援し、協働する脱炭素社会をめざす世界各地で、企業や自治体、NGOなど非国家アクターの役割が高まっている。非国家アクターの活躍が、パリ協定の実施を支え、加速している。「企業版2℃目標」とも呼ばれる「サイエンスベースドターゲット」には、すでに42社の日本企業が取り組み、2017年には、使用電力を全て再生可能エネルギーに切り替える「RE100」に3社の日本企業が初めて参加を表明した。また、全国各地で、地域に根差した中小企業が共同し、再生可能エネルギーの電力や熱の利用を活発化させており、国に先んじたエネルギー政策を進める自治体も存在感を高めている。
 率先して脱炭素化に取り組む非国家アクターを支援し、これらの世界でのプレゼンスを高めることも、日本外交の新たな役割である。国内の先駆的な企業や自治体、またNGOとのネットワークを形成し、市民社会と連携して、世界に向けた発信強化を進めていく。

2.エネルギー転換の実現へ、日本の道筋を確立する

1)エネルギー効率化と再生可能エネルギーを脱炭素化の中心におく脱炭素社会への転換は、経済、地域のあり方の根幹に関わるものであり、速やかな実現には強い政治的意思の発揮が必要である。
 脱炭素化に向け、省エネルギー・エネルギー効率化と再生可能エネルギーが中心的な役割を果たすことは、今や国際的な共通認識になっており、日本でもこれまで以上に高い目標の設定が必要である。野心的な目標値は、企業と地域への明確なメッセージとなり、エネルギー効率化技術、再生可能エネルギー拡大の長期的で安定的な市場の形成、公正な競争を成立させる土壌の醸成、規模拡大によるコスト低下を可能にする。

2)パリ協定と調和した脱炭素社会へ
 石炭火力発電は最新のものであったとしても、パリ協定の2℃目標と整合しない。日本は石炭火力発電所の廃止を覚悟し、その基本姿勢を世界に公表していく。国内の石炭火力の段階的廃止のロードマップを示すとともに、途上国への支援はエネルギー効率化と再生可能エネルギー開発を中心としていく。石炭火力輸出への公的支援は速やかな停止をめざす。

3)「原発依存度を可能な限り低減する」、この原点から出発する 
 東日本大震災後に初めて策定された現行のエネルギー基本計画は、その冒頭に「震災前に描いて
きたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する。ここが、エネルギー政策を再構築するための出発点であることは言を俟たない。」と明記している。
 原子力発電が経済競争力を失い、再生可能エネルギーが価格競争力を高めている世界の現状を認識し、原発への依存度を限りなく低減していく。

3.脱炭素社会の実現をリードし、新たな経済システムを構築する
1)日本の潜在力を引き出し、世界の最前線へ
 日本企業は、エネルギー効率化、電気自動車などの次世代自動車、蓄電池などのストレージ技術、次世代太陽光パネルや洋上風力発電など、さまざまな高い脱炭素化技術を有している。政府がエネルギー転換を実現する新たなビジョンを示すことにより、十分に活用されていない既存技術も含め、日本企業の有する技術力を活かす新たな市場が国内に生まれるとともに、世界市場でさらに大きな役割を果たす足掛かりとなる。
 また、企業が高効率のエネルギーシステムや再生可能エネルギーを選択・利用しやすい仕組みを構築するともに、国際的な評価基準の策定をリードすることも必要である。脱炭素化のルール作りに主体的に参加してこそ、日本経済が今後とも世界のバリューチェーンの中に確かな位置を占め続けることできる。

2)脱炭素化へ責任ある投融資の推進
 脱炭素化に向けてはグリーン金融の役割が欠かせないという認識のもと、エネルギー政策に金融を含める統合的アプローチが進んでいる。石炭など化石燃料への新規出資の停止や投資引き揚げ(ダイベストメント)だけではなく、内外におけるエネルギー効率化、再生可能エネルギー分野への、長期的視点に立った責任ある投融資や保険を普及し促進する政策が必要である。また、環境・社会・ガバナンスに取り組む企業を重視するESG投資が進む中で、国内外のバリューチェーン全体の脱炭素化への投資が促進されるよう、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」などが示した気候変動のリスクと機会に関わる財務情報開示の普及を促進する。
 さらに、政府開発援助における気候変動分野への資金拡大、緑の気候基金(GCF)などの気候変動関連の国際的な資金メカニズムの活用促進を途上国とともに進めることが重要である。

3)地域分散型エネルギーモデルで世界に貢献する
 地域分散型の再生可能エネルギーは、広域的なエネルギーインフラが遮断されても、電力や熱を供給することが可能であり、災害に強い地域づくりに寄与する。今後、気候変動が引き起こす自然災害の頻発が予想される中で、地域分散型再生可能エネルギーの重要性はますます高まっていく。
 日本でも2011年の東日本大震災を経て、地域に根ざした主体による再生可能エネルギー発電事業や自治体新電力などが多数生まれている。こういった動きは、地域が再生可能エネルギーの活用や省エネルギーの促進において主役となるものであり、地域外へのエネルギーコストの流出を減らし、地域を豊かにするものである。電力だけでなく、地域における再生可能エネルギーの熱利用開発も有効な方策である。
 これらをさらに促進するために、既存制度の見直しや、新たな法的枠組みの構築、人材育成やノウハウの共有といった支援を進めていく。さらにこのような取り組みを世界的に普及させるため、各国と連携し、地域分散型再生可能エネルギーの導入支援などの国際協力を推進していく。
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