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五木寛之年頭特別寄稿「今年は備えの年」・・日刊ゲンダイ

 今日は日刊ゲンダイに掲載された五木寛之年頭特別寄稿を紹介する。  kawakami

2013年12月31日 日刊ゲンダイ

 あたらしい年が明けた。
 政治も、経済も、国際情勢も、すこぶる波瀾(はらん)にとんだ昨年だったが、今年はどうか。

 妙におだやかな雰囲気である。暮から新年にかけて海外旅行にでかけた人びとも、空前の数にのぼるという。一見、天下泰平といった感じだ。 しかし私には、この静謐(せいひつ)な新春が、嵐の前の束の間の静かさのように思われてならない。

 高齢者は自分の老後のことしか考えない。そして若い世代は時代の推移に無関心だ。現実を憂うる人びとは、昔も今も常に少数者である。その結果、歴史はつねに同じ経緯(けいい)をくり返す。

 人間は学習しない動物である。私自身、幾度となく同じあやまちを犯してきた。

 今年はたぶん苦しい年になるだろう。税の重さをあらためてひしひしと感じることになるだろう。アジア諸国との緊張感も高まるだろう。団塊の世代が雪崩(なだれ)をうって高齢者の仲間にくわわり、世代間の対立も激化するだろう。

 さらに大きな問題になると思われるのは、同世代間における格差の拡大だ。つまり同じ高齢者層にしても、その中にどうしようもなく格差が目立ってくるということである。

 まず経済的格差がある。いわゆる金持ち老人と貧乏老人への二分化だ。
 さらに健康面での格差があらわになってくる。90歳をすぎてなお矍鑠(かくしやく)としてスポーツをたのしむ老人と、60歳にして介護を必要とする高齢者の増大である。さらに子供や孫、縁者(えんじや)たちにかこまれて幸せに暮す老人と、孤立して単身者として老後をすごす人びとの二分化もすすむだろう。生活保護の受給者数はほとんど変らないのに、世帯数だけが激増していることはそれを示す。つまり単身で生活保護をうけ、アパート住いで余生をおくる老人が増加しているのだ。

 経済、健康、家庭、この三つの世界で、今年ははなはだしい格差が顕在化してくる。いわば、タテ軸とヨコ軸との両面から本格的な格差社会に突入する年ということだ。

 年頭とあって、明かるい話題もさがしてみよう。

 これまで絶大な権威をもって一般人を圧倒してきた専門家、学者の世界がゆらぎはじめている。センセイ、という呼ばれかたを当然のように受け入れていた側に、亀裂が生じはじめたのである。医学、医療の世界はもとより、あらゆる面でセンセイ面(づら)が通用しなくなってきた。インターネットの負の部分のみが語られることが多いが、一般市民が専門知識を検討、検索することで専門家に質問できる時代にはいってきたことは、明かるいニュースといっていい。

 私たちは体を大切にケアしなければならない。わずかでも貯えを作っておかなければならない。そして仲間や家族、見知らぬ人びととのつながりを確保しておかなければならない。そういう備(そな)えの年に今年はなるだろうからである。

 

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