平井憲夫さんの遺言～最終回～

　最終回です。少し長いのですが、最後までお読みください。　　　　　kawakami

66. 今※、2千人を超える人が相談しに来ています。全国に医師が出向いて、一人ずつ診察して。 我々、救済センターは商売でも何でもありません。ボランティアです。運営はカンパだけが頼りです。カンパは何かあって呼びかければ集まりますが、本当に、何度も挫折しそうになりました。※96年当時

67. お医者さんはうちにおいでといってくれる。でも、わからないと思いますが、被曝をしている人は、近所の人に知られたくないというのがあるんです。 だから地元の医者に行かない。どうしても神奈川県から行かなければならない。7人のお医者さんがいますが、今※は一人がやっとです。※96年当時

68. やっと今まで、140人ほどの診察が終わっている。 原発労働者が一昨年(※講演は96年)労災を認められたというのは救済センターとしては、助かりました。やっと国が、原発労働で、癌や白血病になるということを認めたんです。なぜ今まで認めなかったかというと、


69. 新しい原子炉を建設する。巻町でも、石川県の珠洲、山口県の上関、三重県の南島町(※現南伊勢町)、こういう所で新しい原発を誘致しなさい、と。 謳い文句は地域の活性化、雇用の促進です。 被曝の危険を言うと、雇用の促進と言えなくなってしまう。で、今まで認めなかった。

70. 日本の原子力行政自体が行き当たりばったりです。都合が悪いことは全部先送り。動かすと廃炉も解体もできず、毎日出る放射性廃棄物を持っていく所もない。トイレのないマンションと言われる。30年前※から廃棄物が出ることは解っていたが、今も最終処分場もないまま運転してる。※講演は96年

71. 高レベル廃棄物が2月に戻って来る※。使用済み燃料を英仏で再処理してプルトニウムを抽出した残り。これは半端なものではない。フランスの核実験は抗議されていたが、韓国等が抗議したかというとしなかった。 というのは、この核実験は日本のプルトニウムでやってるから。※講演は96年10月

72. 日本政府に文句言わなきゃだめなのに、さきがけの人は知らないから実験場でデモやってる。日本のプルトニウムを使って核実験してるんです。フランスの公の団体が前から日本のプルトニウムを使うことを指摘している。 政府が核実験を遺憾と言うだけで、その先を何も言わないというのはそれです。

73. そういう原子力政策の間違いがあるのに、なぜこれからも日本が原発を造ろうとするかというと、使いもしないプルトニウムを、核兵器を持っていない国、持っている国をひっくるめて、一番、日本が持ってるんですよ。 日本の若い人は知りませんよ。※96年当時

74. アメリカで16～30歳の人のアンケートをとってるんですよ。すると日本は核兵器を持っている、というんですね。それが7割なんです。何故そう思うかというと、日本は今65トンのプルトニウムを持っているから、核兵器を作っていると※。日本人はそんな分量まで関心ありますか？

75. 65tいうと、長崎に落としたプルトニウム爆弾の600発分あるんですよ。 これは高速増殖炉で使うはずだったんですよね。それがもんじゅがあんなんなって、あとは使い道がない。 未だに、プルトニウムを、20年前に決めたからって未だに抽出してんですよ※。使い道もないのに。※96年当時

76. でも平和利用と言った建前上、これから新しい原発を造ろうとするのはそれです※。プルトニウムとウランの混合燃料、プルサーマルを使う原子炉を造ろうと懸命になってる。エネルギーが足りないから原発じゃない。世界中の目をごまかすためにプルトニウムを使う原発をつくるんですよ。※96年当時

77. プルサーマルを解り易くいうと、家庭の石油ストーブにガソリン混ぜて使うのと同じ。これ位怖い。世界中から非難を浴びている。それでも決めたから、とやるんですよ。言い方は悪いですがこれを研究した人は人が死のうが、どうしても研究を形にしてみたいんです。エネルギーの問題でも何でもない。

78. (質疑応答)質問を見させて頂きました。 「原発をやめてエネルギーはどうなるんだ」それはそうです。 しかし今※、ソフトエネルギーというのが叫ばれています。代替エネルギーという人がいますが、主力のエネルギーなんです。これは一番発達した技術を持ってるのは日本です。※96年当時

79. 世界中で風力発電、太陽光発電、コージェネレーション、こういう発電所を海外でどんどん作ってるですよ、日本の商社が。東電、伊藤忠、丸紅、三菱。カリフォルニアの三大風力発電所ね。あれなんか全部三菱、三洋電機、そういう技術力は日本が最高なんです。※講演は96年

80. じゃあどうしてというと、電気事業法。電力会社を保護する法律です。電力会社以外は電気を作っちゃいけない法律があったんです※。 日本はエネルギー、掃いて捨てるほどあるんです。それを、法律で今まで使わせなかった。電力会社以外は電気を作って売ってはいけないと。※講演は96年

81. 北海道のある中学校では、暖房を風力発電でやってるんですよね。生徒が帰るとき止めていく。近所にいっぱい家がある。 生徒の一人が「あれを止めないで夜は近所に電気をあげればいい」といったんです。私も、それをやるのが普通だと言った。でもそれをやったら電気事業法に違反する。

82. 納得して貰えなかった。「どうしてそんな無駄なことを？自分達で法律を作ったんだから変えればいい」。全くその通り。 我々も一生懸命働きかけ、電気事業法が一部改正され、3年前から※、家庭で作った電気でも電力会社で買い取りましょうと、少し規制緩和することになりました。※講演は96年

83. 電力会社以外で発電を始めてもいいという規制緩和。 そうしたら東京電力管内だけで320社が名乗りを上げたんですね。原子力以外で。各社、捨ててたエネルギーがたくさんあるんですよ。それを法律が今まで使わせなかったんです。※講演は96年

84. 鹿島の住友金属という会社では自家発電6基持ってる。自分で使う分には2基で足る。6基動かすとエネルギーが物凄い出て蒸気が作れる。でも棟が違えば使っちゃいけない。隣の家にあげたら駄目。だから鉄鋼作りで出るエネルギーをすべて捨ててたんです。法律があるために。※講演は96年

85. そんな馬鹿な法律が今まで蔓延ってた。規制緩和も誰も手を付けようとしない。地域独占企業、ガス電気っていうのはね、これをなくさないとダメです。 私が東電が嫌だから関電から電気を買いたいって言っても今は買えないんですよ。※講演は96年

86. でも、もう暫く待ってください。これは皆さんも力を入れてほしいんですが、これからどんどん規制緩和を進めていく。そうすると今度320社も発電事業に参加する。地域独占企業というのがまだまだ残るが、東京電力に一旦売るようになる。※講演は96年

87. それからもう一つ規制緩和すると、各地域に合った発電設備が作られ、東京電力は嫌だから、渋谷電力から買うとか。もう世界はそういう風になってきているんですよ。米国などは、15年前から原子力は終わりだと１基も作ってないんです。世界で日本だけです、原発原発言ってるのは。※講演は96年

88. 水力発電所でも今ダムなんか要らないです。1m程の用水路があれば、水力発電で5軒ほどの家が賄えるんですよ。でまたそこへ帰すんですよ。何も熱いものも出ない。それが発電設備350万円ですよ。それくらい良い物があっても、日本は使わせない。こんな馬鹿な法律ありますか。※講演は96年

89. 弁護士の関わりはどうなのか。住民運動、市民運動に関わっている弁護士は沢山います。中々お金がなく、手弁当で。弁護士には負担をかけているが、放っておけないという弁護士さんが非常に多いです。 各地で原発裁判を行っています。ここも全部が手弁当。

90. 原発訴訟は勝てません。最初から決めてかかってくる。そうでなかったのは志賀原子力発電所。これは試運転の前に、現場の検証を金沢地方裁判所が行いました。電力会社がいうようにちゃんとできてるか。私も特別補佐人として、裁判長、書記官なんか入れた8人と、原告側代理人とで検証しました。

91. 新しい原発ほど危ないと言ったら、裁判官もここがおかしいのではと、相当突っ込んだ判決文を書いていた。しかし判決が延期された。判決前に裁判長が変わったんです。何もしてない裁判長が来て、差し迫った事故の可能性がないという判決を出して。それから10時間後に大事故が起こってしまった。

92. 私も知らなかったんですが、法曹関係者に、裁判官を変えるのは当たり前のことだと言われました。でも我々は、裁判は正当で、そんな汚い手が使われるなんて思ってもなかった。原告住民も、もう一度頑張ろうと、高裁に上告しました。

93. 今抱える一番の問題が差別の問題です。非常に難しいです。 お話をすると、それが差別になる。でも、話をしなきゃいけない。 救済センターにお手紙を下さった女性がいる。2年前当時24歳。皆さん東京にいるから原発関係ないと思われているかもしれないんですが、この話はぜひ聞いてほしい。

94. 映画などでは、便箋を涙に濡らしながら書いたとか聞きますが、実際に見たのは初めてでした。泣きながら書いたんだろうというのは。女性は東京に出てきて、結婚が決まって結納を交わしたが、ある日突然、彼氏の親から婚約を解消されたと。

95. 私に悪い所があるんだったら言ってほしいといったら、どこにもないが、白血病の孫は見たくないと言われたと。 極端ではないですが、確かに原発の周囲では、白血病の子供の生まれる確率は高いんです。「私が何を悪いことをしたんですか。偶然そこに育っただけなのに」と。

96. この人、自殺でも考えるんじゃないかと。センターの弁護士に会って励ましてくれと頼んだ。どうだったかと聞くと、何も話はできず、一緒に泣いただけだったと。 これは現地だけの問題じゃなく東京で起きているんです。その人がいうには、同窓会では自分と同じような人が２人いたと。

97. そういう差別が増えてしまっている。24時間、放射能がずっと蓄積されてるんですよ。 先月、柏崎刈羽原発に行って来ました。そこで、町の保健婦さんが、「確かにちょうどここ10年、水頭症、白血病の子供が増えました」と。そういうことが起きてしまっている。

98. 原発というのは、事故とか、故障だけじゃない。放射能だけじゃない。人間の心まで冒してしまったんです。

99. 石川県珠洲では教育現場まで原発の問題が持ち込まれている。ここはずっと原発賛成反対で割れている。毎年中学生の作文コンクールがあるんですが、ある中学生の作文。何でもないことを書いてる。前は皆友達だったが、大人が賛成反対言い出して、反対の家の子とは遊ぶなとか、そういうのが悲しいと

100. それを、発表の前の日に、校長先生が「子どもが原発のことを書いては駄目だ」と全部書き直させたと。校長先生が書いたらしいんです。でもその子は、自分が書いた通りを読んだらしいんですよ。悪いこと書いたと思ってないから。 皆も校長が変えたと知ってたんですよ。普通なら拍手喝采ですよ。

101. それが実際は、「あんたの所の子供くらい素直じゃない子供はいない。内申書がどうなってもいいんか」と脅されたらしい。こういうことが原発予定地では日常的に起きてるんですよ。

102. 原発推進というのは誰がしているのか。 原発は国策なんて言いますよね。国策というと誰か国が決めたというんですがそういう人はいません。先程話したように、プルトニウムをあまりにも持ちすぎて、これを隠すためだけの推進。

103. どこも新しい原発も受け入れる所がなくなって、そのためにお金。電源三法交付金とかあらゆる理屈つけてお金やるから作らせろと。それは仮に、2基作ったとしますよね。そうすると
160億円くらい、その町に行くんですよ(※講演は96年)。でも誰が利益を受けるかというと。

104. 電源三法交付金というのは、工事が終わって5年で終わる。使い道が決められてます。道路や箱モノ、つまり土建業者が儲かることに使わなきゃいけないって決められてるんですよ。その土地のお金で使い切らなきゃいけないんです。 だから要らない建物をどんどん作る。※講演は９６年

105. 実際はどうかというとあまりに建物を作ってしまう。でも交付金がなくなってしまうと、維持管理ができない。お金がない。 で、増設を申し出るんですよ。もう一回お金がほしいと。麻薬みたいなもんなんです。誰が儲かるのかというなら、土建業者さんです。※講演は96年

106. 講演記録をマスコミで流さないのか？という質問。 私、年間相当数テレビでやっております。それに対して電力会社が非常に神経を尖らせております。これはね、地方局で流しているんです。全国ネットでは滅多に出ないんです。

107. 先月も浜岡原発について取り上げたんです。 国土庁が、東海地震が起きると言ってる。そのど真ん中にある。しかし5号機の増設をすると。それに対してテレビで異議を申し上げたんです。※講演は96年10月

108. 国会議員の議員会館で原発のレクチャーもやったりして、労働問題を取り上げてもらったりしてます。そこでお話をすると、解ったような顔して聴いてるけど、解ってないんですよ。だから、実際私が一緒に原発に入って説明するから、定点工事の時は被曝を伴い危ないが中まで入っていけるから、と。

109. そこで新社会党の国会議員と15人で、視察、調査団で行こうとしたら、中部電力が「学者は何十人来てもいいが、平井は絶対に駄目だ」と。 というのは、中部電力浜岡原発は私がずっと工事をやってきたところ。 だからどこを手抜き工事してるかも知ってる。だから絶対に入れさせない。

110. 私は何も暴こうというんじゃなく「ここが危ないから直そうよ」と。 明日止めるわけにはいかないんだから。 だから素直に聞いて、安全だというなら自信を持って見せなさいと。こういうことをテレビではしょちゅう言っています。※講演は96年

111. 「柏崎刈羽原発の見学では放射線の量は、銀座駅構内より少ないときいた」という質問について。安全協定結ぶときに、建設・運転する前にその辺りの自然放射線量を測ってるんです。ところがデータ的に、運転を始めるとそれ以下になってしまう。そんな馬鹿な話ありますか。

112. その測定値を使って、銀座より少ないと説明してるんです、未だに(※講演は96年)。ごまかしは利かなくなってきてる。これはサービスホールのお姉さんでしょう。 あの人この前も大恥かいたんです。原発は窓がないから、排気塔で空気の入れ替えしてると。そういう馬鹿な事を教えられている。

113. 大量のプルトニウムの最終処分はどうなるかという質問。 目処がついていません。だから六ヶ所村、東海村でも抽出しているんですよ。使いもしない物を。一旦決めたらやめないんですよ。何にも言わないのが偉い官僚だから。 さあどうするのかと。国民全体が声を出さないと。※講演は96年

114. 市民運動というと特殊な人がやってると思う人が多いんですよ。成程、今から10年前までは、市民運動は労組がリードしてやってきました。鉢巻して石投げて。 でも今は環境問題とか色んな問題に広がっていってる。何でもいい、3人でもいい。やっていけばいい。※講演は96年

115. 核兵器、これは怖い。高純度プルトニウムを抽出する設備を東海村で運用している。これは高速増殖炉にも使えない。では何に使うか。アメリカのクリントン大統領も研究しかけたんですが、ゴアがその設備を全部壊した。絶対にやっては駄目だと。それを日本は東海村でやっている。※講演は96年

116. 日本は核兵器を持たないと言ってるけど、明日持てるまではやっておこうと思ってるのかなと。 確信はありませんよ。だけど、要らない高純度のプルトニウムを何に使うのか理解できない。説明もありません。

117. 原子力の問題は、いっぱい問題を抱え込んだまんまなんです。今回の20日の選挙※。よく文句だけ言う人はいます。国が悪いとか、議員が悪いとか。選挙行かないのに文句を言ったらいけない。批判票でいいから入れる。※講演は96年10月12日

118. 市民運動やってる人に言います。それを国会で取り上げなさいと。「国会議員を知らないし」といわれる。でも、選挙で誰か書いたでしょう?その人の所に行きなさいと。私も国会議員なんて偉い人で、行ったって駄目だろうと思った。でもどうにかして労働者を救いたいと議員会館に行きました。

119. 制度や役割、法律を変えない限り日本は変わりません。菅厚生大臣が、薬害エイズを頑張ってる。当たり前のことです。私は菅さん6～7年前から知ってる。7年も前から薬害エイズずっとやってる。厚生大臣になったからやってるんじゃない。市民運動の続きをずっとやってるんです。

120. 原発問題は、社民党も今までずっと反対してきたのに今はよくわかんなくなってる。原発あり自衛隊もあり。だからやはり今回の選挙で選んで。運動してる人は、国会議員にお願い陳情だけじゃダメです。講演は96年

121. 7月の衆議院の労働委員会で、原発被ばく労働者のことをやりました。岡崎トミ子さんかな、民主党に入ってるんだけど、議員会館の事務所で、ほとんどその質問は私が書いたんですよ。秘書と一緒にスタッフの人間として作っていくんです。※講演は96年10月

122. 議員会館にいってこういう問題をどうにかしてください、じゃ駄目です。こうしましょう、ああしましょうというのを作っていくんですね。国会議員さんは国会でやりたいんですよ、でも何をやっていいかがない。何もやってないんじゃない。皆さんが選挙で選んだあと、何にもやらせてないんです。

123. クリーンな政治家といいますが、クリーンな議員、情報収集もできない。一方、荒っぽく金を集めているが、シンクタンク抱えて、すごく情報を集めてる議員もいる。それをやるには金がかかるんです。だからどちらを選ぶかです。荒っぽいが有能な政治家か、クリーンで何もしない政治家か。

124. 国会議員は半分でも余るほど、何もやってない。歳費を丸取りにしようというだけで何もしてない。だからこれからは選挙も非常に重大になって来るし、皆さんがこれから裁判官、検事、弁護士になって※、やはり色んな問題、泣くに泣けない問題が出てくると思います。※講演開催は司法試験予備校

125. 私も原発裁判で証人として出ていますが、本当に泣きたいようなことが起きると思います。それに負けないでやってほしいと思います。どうもありがとうございました。【終】

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