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世界のエネルギーの方向は  1  [火力発電所]

 今日から4日間にかけて、気の遠くなるような‥でも実現性の強い、LNG火力などどこかに吹っ飛んでいくような、30年先を見通したエネルギー政策のことを書く。エネルギー問題担当のわが「政策研」事務局長の提言である。このぐらいのことは、政策に関心のある方々は、是非頭のどこかに染み付けておいてほしいものだ。冒頭あっと驚くドイツのエネルギー覇権計画である。 kawakami

◆ ドイツ、水素覇権へ「10年の計」 1兆円超投資
フランクフルト支局 深尾幸生
グローバルViews コラム(国際) 2020/7/6 0:00 日本経済新聞 電子版
 
 ドイツが官民を挙げて水素技術の開発に本腰を入れ始めた。政府は6月、「国家水素戦略」をまとめ、新型コロナウイルスからの復興策に1兆円を超える巨額の水素投資を盛り込んだ。再生可能エネルギー拡大と並行して技術開発を進め、2030年以降の世界の覇権を狙う。

水素覇権を狙うドイツ 1.PNG


 国家水素戦略を発表するアルトマイヤー経済相(中)(2020年6月10日、ベルリン)=ロイター
「ドイツは水素技術で世界一になる」。アルトマイヤー経済相は6月10日に発表した「国家水素戦略」についてこう強調した。世界の再生エネ導入を促すきっかけとなった00年の再生可能エネルギー法(EEG)を引き合いに「EEG以来最大のイノベーションだ」と鼻息が荒い。

ドイツ水素覇権 2.PNG


 水素と聞いて想像するのは燃料電池車かもしれない。ガソリンの代わりに水素を充てんして燃料電池で電気を起こしながら走る。トヨタ自動車の「ミライ」などで日本が先行する。
ただドイツでは独ダイムラーが小規模生産している燃料電池SUV(多目的スポーツ車)の生産を年内で打ち切ることを決めるなど乗用車では主流になりそうもない。にもかかわらず、独政府が水素で世界一を目指すのは別の狙いがある。

◆ 2050年には温暖化ガス排出ゼロが目標

国家水素戦略はこう記す。
「水素をドイツの脱炭素戦略のカギにすべく、生成から貯蔵、インフラ、利用まですべてのバリューチェーンを見直す」
 つまり、電力・輸送・製造分野を貫くいわば「産業の血液」の役割を水素に託そうというのだ。

 ドイツは50年までに二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの純排出をゼロにする目標を掲げる。達成には化石燃料による発電を再生エネに変えるだけでは足りない。まず風力や太陽光などは季節や時間帯による発電量の変動が大きく、現在、調整弁を担うガス火力に代わる存在が必要だ。

 次にCO2を多く排出する分野で技術革新を起こす必要がある。たとえば航空や船舶などの運輸分野で原油由来の燃料の代わりを見つけることや、製造過程に石炭が不可欠な鉄鋼、文字通り石油を使う石油化学で新しい生産法を確立することだ。電気自動車(EV)に代表される電動化は一つの手段だが、長距離・重量輸送や素材生産の代替は難しいとされる。

 独政府は水素がこうした課題を解決すると期待する。電力分野では、再生エネの余剰電力で水を電気分解して水素を作ることで、エネルギーをためたり運んだりする手段とする。電力システムの一部に水素を位置づけ、必要なときに電気や熱をつくる天然ガスなどを置き換える。
運輸分野では、水素と空気中などの炭素を合成することで化石燃料に代わる航空や船舶の燃料を作る。製造業では、製鉄過程で鉄鉱石を還元して純粋な鉄を取り出すためのコークスの代わりに水素を使い、化学では化学品の原料に利用する。

◆ 予算は90億ユーロ

 新型コロナから復興のための経済対策では水素に90億ユーロ(約1兆800億円)の予算をつけた。現在はまだ実証段階にとどまる水素に対策全体の7%を振り向ける破格の扱いだ。エネルギー量あたりの供給コストが天然ガスの1.5~5倍とされる水素のコスト競争力を高め、水素の生産能力(電解装置の能力換算)を30年に現在の200倍の5ギガワット、40年に10ギガワットに増やす計画だ。10ギガワットなら原発10基が生むエネルギーと同等だ。

 水素戦略で注目すべきは「グリーン水素」に特化したことだ。グリーン水素とは再生エネの電気を使って水を電解装置で分解して作る水素を指す。石炭や天然ガスから製造する「グレー水素」を認めないだけでなく、化石燃料をベースにCO2回収と組み合わせてCO2排出をゼロにする「ブルー水素」も長期的には戦略の枠外とした。

 調査会社のブルームバーグNEFによると、現在世界の水素生産量は1億1000万トンでほとんどが農薬などの生産に使われている。このうちグリーンは1%に満たず、残りはほぼグレーだという。
実は、いまドイツで水を電解して水素をつくってもグリーン水素にはならない。19年の電源のうちまだ約4割が化石燃料だからだ。ではなぜいまから水素に懸けるのか。

◆ 一気に水素社会への移行を目指す

 独シンクタンク、アゴラ・エネルギーヴェンデのディレクター、パトリック・グライヒェン氏は「再生エネの比率が高まってからでは遅い。20年代に投資して備えなければならない」と解説する。ドイツは30年に再生エネによる発電比率65%を目指している。「再生エネの比率が高まったときに一気に水素社会に移行できるように準備することで、(発電量の変動を吸収する能力も高まり)再生エネ拡大の加速にもつながる」と言う。

 ドイツの野心は水素戦略の次の一文に集約されている。
「ドイツの産業を強化し、ドイツ企業にとって世界市場での商機を確保する」
シーメンスやティッセン・クルップのようなドイツを代表する企業のほか、スタートアップのサンファイアなどが電解装置を手がける。電力大手RWEや化学大手エボニックなどもそれぞれの分野で水素利用の拡大をにらむ。巨額の予算でこうした企業を北欧やオランダ、日本などの競合に勝てるように後押しし輸出産業に育てる。90億ユーロの予算のうち、20億ユーロはドイツ製の電解装置を使う海外のプロジェクトへの投資とする周到さだ。

 政策面では、CO2排出に応じた課税や、グリーン水素を製造するための電気代を安くするなどしてコスト競争力を補う。30年までに航空燃料の少なくとも2%をCO2フリーの燃料を使うよう義務付けることも検討している。
 20年前に独政府が再エネへの移行を打ち出したとき、コスト増で競争力が落ちるとして否定的だった産業界も今回はおおむね歓迎している。20年1~3月に発電に占める再エネ比率が51%に達し、初めて風力が最大電源になるなど、長期計画が成果を示してきたことも背景にあるだろう。
グリーン水素はドイツの脱炭素、そして産業競争力向上の特効薬になれるのか。思惑通り進むならこの10年のドイツ社会・産業の変化はすさまじいものになりそうだ。



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