SSブログ

繰り返される日本の失敗パターン 2 [コロナ問題]

 昨日の続きです。明日が最終です。 kawakami


1 飲み会2人と10人では接触機会が45倍
 たとえば、私自身の例でいうと、ふだん至近距離で他人と接触する機会の大半は往復の電車通勤でのものなので、電車通勤をやめてクルマで出勤すれば他人との接触の8割削減が実現できるのではないかと思ってしまう。もちろん私はそのような解釈をして行動しているわけではないが、「人との接触を8割削減」という戦略にはそうした解釈の余地を残してしまう。

 安倍首相は4月22日に発したメッセージで「都市部では(現状では)人の流れが平日は6割減、休日は7割減で、接触機会の8割削減にはさらなる努力が必要です」と述べた。この発言には「人の流れ」と「接触機会」との混同があり、最高指揮官の安倍首相でさえ戦略をクリアに理解していないことがわかる。

「人の流れ」と「接触機会」が異なることは、2人で飲み会をやる場合と10人でやる場合とを考えてみればよい。10人で飲み会をやれば2人の場合より外出する人の数は5倍に増えるが、接触機会は45倍にもなる。なぜなら、2人ならば接触機会は1回だが、10人の飲み会となると、自分自身が9人と接するだけでなく、他の9人も相互に接するからである。
 これは10人から2人を選び出す「組合せ」の問題であり、その答えは45回である。外出する人数が何千、何万となると、nC2≒n2乗/2となるので、接触機会を8割削減、つまり5分の1にするには、人の流れを√5分の1に、すなわち55%ほど削減すればいいことになる。もし外出人数が7割削減されているのであれば、人と人との接触機会は91%も減っている計算になる。

 私は何も外出人数を55%削減すればいいと主張したいわけではない。「接触機会」という概念は首相でさえ正しく理解していないし、「人の流れ」とは異なってデータで検証することも簡単ではないので、理論疫学の計算で使うにとどめ、政府が掲げる戦略とすべきではないといいたいのである。
 政府が国民にメッセージとして発する戦略は誰でも理解しやすく実行可能なもの、すなわち「外出は一日一回、生活必需品の買い物のみに限定しましょう」「散歩やジョギングのため公園に行ってもいいですが、他人との距離は2メートル以上保つようにしましょう」「年老いた両親に会いに行くのはやめましょう」「オフィスではテレワークを推進し、出勤人数は7割以上削減しましょう」といったメッセージで十分である。

2.役に立たない兵器
 太平洋戦争中の旧日本軍の秘密兵器に「風船爆弾」というものがあった。和紙で作った直径10メートルの気球に焼夷弾をつけてアメリカに向けて飛ばして攻撃するもので、約9300個放たれたうち、実際にアメリカに到達して爆発したものはわずか28個、6人にケガを負わせ、小さな山火事を2件起こすという「戦果」を挙げるにとどまった。

▼ マスクにもならないアベノマスク
 安倍首相の肝いりで全国5000万世帯に一家に2枚ずつ配布が始まった通称「アベノマスク」も役に立たないという点では風船爆弾とどっこいどっこいのようである。

 先に配布された妊婦用の布マスクの場合、5月1日までに4万6934枚に黄ばみやカビの疑いなどの不良が見つかり、すでに発送した47万枚を国に返送させて検品しなおすという(『朝日新聞』2020年5月1日)。全戸配布される「アベノマスク」についても不良品が続出したため、未配布分を業者が回収して検品しなおすという。

 不良率が1割というのは、これまで中国から研修で来日する企業家たちに「日本企業はPPM(百万分の1)のオーダーで不良率の低減を目指しています」と説明し続けてきた私にとっては、まったく目を覆いたくなるほどの惨状である。
 加えて、致命的と思われるのは、アベノマスクを使って粒子がどれだけ漏れるかを検証してみたら漏れ率が100%だったという事実である(『AERAdot』2020年4月28日)。アベノマスクは国民を安心させるために配るのだと首相の側近たちは言っているらしいが、決して安心してはいけない代物なのである。

 アベノマスクに大量の不良品が混じっているうえ、そもそも感染予防には役に立たないことが明らかになった以上、回収して検品しなおして再配布するなどという無駄なことは直ちにやめ、未配布分は廃棄すべきである。すでに配布してしまった分については
「ウイルス遮断の効果はありませんが、咳エチケットとして着用する場合には煮沸消毒したうえでお使いください」
と政府から市民に伝えるべきだ。そうしないとアベノマスクが健康被害を引き起こしかねない。そしてこの無益な物に膨大な国費を費やしたことに対して、責任者に応分の処分を下すべきである。

3.科学よりも情緒に引きずられた入国拒否
 新型コロナウイルスの特徴は、感染者が無症状のまま他人に感染させてしまうことである。そこで、感染している蓋然性の高い人たちの動きを制限することで感染拡大を防止する措置がとられてきた。すなわち、中国の武漢で感染爆発が起きたときには武漢が封鎖され、その後も感染爆発が起きている国からの入国を制限することが世界中の国によって行われている。WHOは当初国境を遮断する措置に反対したが、結果的には出入国の制限はかなり効果的だったと思われる。

▼ 遅すぎたアメリカからの入国拒否
 日本政府も感染爆発が起きた国や地域からの入国を拒否する措置を立て続けにとってきた。
ただ、そのタイミングを見ると、しばしば入国を拒否するタイミングが遅すぎ、それが3月末以来の急激な感染拡大を招いたとみられる。

 日本政府はまず1月31日に中国湖北省に滞在歴のある外国人の入国を拒否すると発表した。同日の中国の新規感染確認数は2102人。武漢の都市封鎖が行われたのが1月23日だからその直後に湖北省から入国拒否をしてもよかったが、8日間も遅れてしまった。習近平国家主席の来日を控えての遠慮があったのではないかと疑われる。

 ただ、日本側の遮断は遅れたものの、中国が自発的に武漢の封鎖や団体旅行の停止などの措置をただちにとったため、この遅れの実害はほとんど出ていないようである。国立感染症研究所の最近の研究によると、1月に武漢から日本に入ってきたウイルスはその後大きな広がりを見せることなく3月には終息したらしい(『朝日新聞』2020年4月28日)。

 2月16日に日本政府は中国浙江省も入国拒否の対象に加えた。しかし浙江省での感染拡大は2月13日までに終わっていたのでやはりタイミングが遅すぎた。ただ、この遅れもあまり大きな影響はもたらさなかった。

 2月下旬には韓国で大邱を中心に感染爆発が起きた。日本政府は2月26日に大邱および慶尚北道清道郡からの入国を拒否すると発表した。この日の韓国の新規感染確認数は214人で、図1に見るようにその後の1週間に感染爆発が起きた。つまり韓国に対しては感染の上りはなを捉える絶妙のタイミングで入国拒否が行われたのである。

 3月に入るとイタリアで感染爆発が起きた。日本政府は3月10日にイタリアのヴェネト州など5州からの入国を拒否すると発表した。しかし、この日のイタリアの新規感染確認数はすでに1797人。韓国に対するのと同様のタイミングを捉えるためには、これよりも10日前にイタリアに対して入国拒否を実施すべきだった。さらに3月半ば以降はアメリカでの感染がものすごいことになってしまったが、日本政府がアメリカからの入国拒否を発表したのはようやく4月1日である。その日のアメリカの新規感染確認数は2万2559人であり、あまりに遅すぎた。(続く)

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。