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北海道のブラックアウトは人災 [人災]

 友人Yさんが下記の文章を送ってくれた。北海道のブラックアウトについての鋭い分析である。
単身赴任の毎日新聞記者が書いたものだ。毎日にもすごい記者がいる。健闘を祈る。
                       kawakami

◎ 毎日新聞2018年9月12日 東京朝刊  
 停電が続き、車のライトと自家発電中の信号だけが灯る繁華街、ススキノの交差点=札幌市中央区で6日午後6時半、貝塚太一撮影

 北海道南西部の胆振(いぶり)地方を震源とする巨大地震は道内で初めて震度7を観測しただけでなく、全域の295万戸が停電するという異常事態を引き起こした。地震は予測不能の天災だが、停電は電気を供給する北海道電力(北電)に責任があり想定外ではなかった。今回の原因は、長年にわたる原発依存の経営が招いた“人災”だったと言わざるを得ない。

◎ 設備投資を怠った北電  
 「すごい揺れだった。停電も長引いているし、どうしたらいいか……」。
 この春まで北海道報道部に所属していた私は今、妻子を札幌市に残して東京に単身赴任中。不覚にも地震発生を知ったのは、1時間半もたった6日午前4時42分、妻からの携帯電話だった。あまりにも暗い声の調子に、最初は身内に不幸があったのかと思ったほどだ。

 妻によると、激しい横揺れで跳び起きて照明やテレビをつけた。室内に被害はなかったが、しばらくすると停電になり情報が途絶えた。すぐに復旧すると思ったものの、1時間たっても電気が来ないので不安になって電話をした。断水はしていなかったが、コンロがIH(電磁誘導加熱)調理器なのでお湯も沸かせない。「物置からカセットコンロを出してくる。スマートフォンの電池も切れそうなのでこれで切る」と言うので、私は「すぐに電気はつくよ。気をつけて」と言って会話を終えた。震源地周辺の被災者には大変申し訳ないが、札幌は震源から遠かったこともあって、私はこの時点でもまさか停電が全道に及ぶとは思いもよらなかった。

 停電の直接の原因は、震源に近い厚真(あつま)町にある苫東(とまとう)厚真火力発電所(総出力165万キロワット)が緊急停止したことだ。苫東厚真は北電の火力発電所のうち最大。3基の発電設備で道内の電力需要の半分を担う。そこが被災したため、電力の供給と需要のバランスが崩れて大停電「ブラックアウト」に陥った。

 そもそも九州の2倍以上も面積のある北海道で、たった1カ所の火力発電所が基幹発電所になっているのはなぜか。それを考えると、北電が長年にわたって泊原発(泊村、総出力207万キロワット)に依存する経営を続けてきたことに行き着く。
 泊原発で1号機が運転を開始したのは1989年。91年には2号機も稼働した。私は、北電の転機になったのは、90年代後半に3号機の増設に踏み出したときだったと思っている。当時すでに北海道の人口は減少期を迎えていた。国内外で脱原発の流れが生まれ、再生可能エネルギーや省エネ技術に脚光が集まりはじめていた。道民の多くが原発依存の危うさや設備投資の過大さに目を向けたが、3号機は2009年に運転を開始した。この「全国で最も新しい原発」は東京電力福島第1原発事故後の12年に定期検査で停止して以来、一度も稼働していない。

 北電の発電量に占める電源別の比率は10年度、原子力が4割以上と関西電力に次いで高かったが、原発事故後は逆に火力が7割以上に達し2度の料金値上げに追い込まれた。北電の火力発電設備は現在13基。このうち泊原発の運転開始後に稼働したのは2基しかなく、他の11基は稼働30年以上と老朽化が目立つ。環境への負荷が少なく、他社が力を入れていた液化天然ガス(LNG)発電所の建設や、本州からの送電設備の増強に乗り出したのは14年だった。北電は原発にのめり込んで設備投資を怠ってきた--と指摘されても、いまとなっては仕方ないだろう。

 北電は原発事故でも経営のあり方を見直さなかった。13年には泊原発の再稼働を申請したが、原子力規制委員会から原発のある半島の海底に「活断層の存在を否定できない」と指摘され、防波堤にも問題が見つかった。5年もの間、資金と人材をつぎ込んでいるにもかかわらず一向に再稼働の見通しが立たないことに、社内には「厭戦(えんせん)ムード」すら漂っている。

◎ 電源の多様化や立地の分散化を
 こうした状況について私は「原発推進は国策だったにせよ、なぜそこまで固執するのか」という疑問を北電幹部にぶつけたことがある。幹部は「人口や産業の少ない北海道は、広くて送電コストもかかり『電気料金が全国一高い』『企業誘致の支障になる』と非難されたが、泊1、2号機で料金を下げることができた。3号機の再稼働を目指すのも、最新鋭の原発へのこだわりから後戻りできなくなってしまった」と苦しげに話した。目先の「経営効率」を優先し大規模一極集中型の原子力発電を推進したツケが、いま噴出している。

 本州と違って暖房のため多くの電力を消費する北海道は、これから最大の需要期を迎える。今回の大停電では老朽化で休止が決まっていた火力発電所も稼働させており、このまま冬を乗り越えるのはかなり厳しいだろう。だからといって泊原発の例外的な再稼働はあってはならない。その上で私たちも電気の大量消費を前提とした生活を見直す必要があるが、北電は電源の多様化や発電所立地の分散化に限りある経営資源を投じるべきだ。若手社員の中にはそうした声も生まれている。もはや原発依存を続ける余力は残されていないはずだ。



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